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舌小帯短縮症(舌癒着症?)ーankyloglossia あるいはtongue-tie (2) [妊産婦の忘備録]

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こんな記事誰も見ないかなあ、と思って放置してあったこの記事に「その2」のリクエストがありました。m(_ _)m
というわけで、急遽アップ!

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舌小帯の付け根の構造がどうなっているか、というと、唾液腺の開口部、つまり唾液の噴出口がある。オトガイ舌菌を超音波メスやレーザーメスで切る、ということは当然、こういった構造を破壊する可能性がある。それに、舌下奥というのは免疫学的に見た場合、まだよくわかっていない機能があるようなのだ。近年やっと日本にも導入された花粉症の根治療法で、注射法よりも安全な舌下減感作療法(SLIT)というのがあるが、それはこの舌下経由で花粉抗原を体内に取り込ませると、花粉症がかなり軽減するのである。でも、舌下粘膜がどのように抗原を体内に運ぶのかは分かっていない。

そういった、まだよくわかっていない機能のある部分をメスで焼灼して破壊してしまうのが怖かった訳です。

それと、もう一つはこの術式の手術をするグループの先生方の姿勢がちょっとアレ、というか、慎重さが足りないんじゃないかなぁ、という気がしたんでした。通常、こういうirregularな術式の手術をする場合、まず手術をすることでメリットが明らかな症例を選ぶと思うんです。たとえば、既に何度も呼吸困難を起こしている子や、おっぱいが飲めずに成長が著しく遅れている子だけに手術をし、術前術後の変化を詳細にデータをとって論文に発表する。症例報告は一例でも構わないので、まず徹底的に証拠固めをする。数例から数十例、誰の目にも明らかな改善を示した症例を蓄積して、その術式の安全を確認した後、手術の適応範囲を徐々に広げる。またこういった斬新な手術の場合は、長期にその結果をフォローする。こういった手順を踏まないと、医学会で他の医師に受け入れられない。つまり、その術式はなかなか広がりません。この先生方のところでやる術式に通常の(舌小帯を切るだけの)術式を採用することはほとんど無いらしく、舌小帯とセットで舌奥の筋を切るようなのです。十把ひとかげに、一つの術式を適応するのはどうなんでしょうか。9割の人が「程度の差こそあれ、舌癒着症を有する」という認識は、どうなんでしょうか。それは本来、剥離すべきものなのでしょうか。

そういう、手術の必要性に疑問が湧いていた状態で、この手術をやめようと決心したキメの、先生の説明の言葉は「この手術をした後は頭が良くなる、と言われてます。自身もそういう経験をしています。どうせ育てるんだったら、頭の良い子がいいでしょう?」という言葉でした。そりゃ、頭、良い方が親は嬉しいですよ? でも、そのためにメスを入れるか、というと・・・手術の効果や後遺症の検討が私的には十分でないと感じる現段階で、必要性に迫られていないのにそういう人体強化術(と、この先生も認識しているワケです。)をするか、というと、私の答えは「No」でした。そんなリスクを冒す勇気はない。切ったものは元に戻らないが、切らなければ、今後必要が生じた時に切ることはできます。

現時点でSpO2も問題が無いので、術式は通常の舌小帯切離術で十分ーーーーー

では、その一般的な方法での舌小帯切離術をするか否か?

舌癒着剥離術(オトガイ舌筋 Genioglossus muscle まで切る*舌癒着症*としての手術)は受けるのをやめたわけですが、たんに舌小帯 tongue-tieを切るかどうか、の判断は残っています。誰の目にも明らかなキュ〜君の異常な舌の裏の「つながり具合」を放置してよいものか?

普段は頼りになる、かかりつけの小児科医S先生も、総合病院の小児外科医も、手術はしなくていいですよ、とおっしゃる。理由は「①効果がはっきりしないから。②2ヶ月という月齢ではもうすでによく動く。全身麻酔じゃないと手術は無理。そこまでして効果が証明されていない手術は勧めない」

まあ、医師の姿勢として、これは分かる。メリットがはっきりしない(=証拠がない、エビデンスがない)のは本当で、これほどよく見られる症状でありながら、舌小帯短縮症の成長に伴う経過についての研究はなされていないようである。(これには舌、という臓器の計測のしにくさも関係している、と思われる。)
小児外科医の先生の方は「つながったままの舌小帯は成長にともなって縮退するケースも多いんですよ」とおっしゃる。が、これも根拠はない。実際には、成長によっても改善されないケースもある、という証拠が以下の動画。(高校生、とのこと。うちの子と同じような舌小帯)
http://www.youtube.com/watch?v=_hzXcs9Ja6U

次に発声の問題。上記の先生は2人とも「全員が発音障害になる訳ではないから、問題が出てから手術したら?」とおっしゃる。短縮症にもいろんな程度の差が存在する。どのくらいの確率で発音障害(特に「ら行」、吃音)が出るかはいまいちデータがない。100人に一人と言う先生もいるがこれも根拠は不明である。親としての懸念は、年齢があがってからの舌小帯の手術は結構たいへんである、ということと、それまでの何年という長い生活歴の間についた「舌癖(ぜつへき)」を治すのも一苦労だ、というのが容易に想像がついたからである。つまり、大きくなってから舌小帯を切っても、切っただけで発音の問題が解決する訳でなく、本人の忍耐強い再訓練が必要になる。(言語聴覚士なる職業の人がトレーニングにあたるようだ。)それよりは2ヶ月の今のうちに切ってしまいたい、というluxelの意見は定まった。

残すは麻酔の問題。小児科、小児外科の先生は「全身麻酔になる」という話だった。確かにこれはheavy。でも最初の耳鼻科医の先生は、筋まで切る手術なのに浸潤麻酔だと言った。で、通常の術式の舌小帯切除術をしてくれる先生をさがしたらなかなかないんですね〜。ネットでたぐってたぐって、どうやらこの先生がやっているらしい、と分かりました。
http://www.mizutani-dental.jp/
口腔外科が専門の先生なので安心です。

お電話でうかがうと、麻酔はするけど部分麻酔、私たちが歯の治療で注射されるアレ、ということが分かりました。な〜んだ、全身麻酔じゃなくていいんじゃん!と、早速、予診の予約。

予約して、先生に見てもらって、それから手術の日を決めます。
一週間後、キュ〜くんを車に載せてはるばる千葉から横浜へ。
おっとりした先生のようで、あっさり予診終了〜
この先生はたいへん慎重で、手術後1日2は日飲み方が下手になって、おっぱいを飲めなくなる可能性があるから、と小児科の先生に、脱水などの症状を起こしたときのフォローを頼めるか聞いてください、とおっしゃいました。
で、小児科のS先生にうかがうとこちらも「よかったね! 手術してくれるとこが見つかって。OK、大丈夫ですよ。赤ちゃんは栄養は蓄えてるから、1日2日は大丈夫。脱水だけは怖いから、飲まないで、おしっこの色が濃くなって、具合が悪そうだったらきてください。なんとか点滴とかします。でも大丈夫だと思うけどね〜。」とのこと。

で、一週間後、手術へ。
パパにも職場から横浜までかけつけてももらいました。
手術の模様は「その一」の記事に書いたとおり。
なんですが、
簡単なように見えますが、それがプロがやって、のこと。
や〜、ぐりぐり動く舌を避けて舌下に麻酔を注射するのもタイミングとか難しそうだったし、
それでも動く舌を固定して、ハサミでチョキン!チョキン!とタイミングを見計らって切るのも
一針サクッと縫うのもプロの技でした。
いや、お見事! 先生、ありがとう!!![わーい(嬉しい顔)]

はるばる越県して、安心できる先生にかかってよかったな〜、としみじみ思いました。
キュ〜君は術後30分くらいして、難なくおっぱいを飲み始め
(あ、授乳用のケープを持参して、待ち合い室の子どもスペースで授乳させていただきました。)
拍子ぬけでした。飲み方はちょっと弱いかな〜、くらいで、痛がっているような素振りは全く無し。
(やっぱり、鈍覚![わーい(嬉しい顔)]

手術後は化膿止めの抗生物質と痛み止めを処方していただきましたが、結局、痛み止めは不要でした。
ちなみに手術の一週間後に電話でいいので、術後の様子をお知らせください、とのことでしたが、おっぱいの飲み方は元にもどり、発熱や脱水などもなく、順調そのもの、とご連絡しました。

次の術後検査は一年後。
もし切り残しなどがあったら、その時また対処してくれるそうです。

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手術から既に4ヶ月。
手術してよかった、と実感してます。
術後一ヶ月半くらいで、乳首に出ていた痛みが解消し、
キュ〜君は、量は飲めて順調に体重は増えてはいたのだけど、やはり無理な飲み方をしていたようで、その飲みグセはすぐにはなおらなかったようでした。こんなに小さな子でも舌癖ってつくんですね。
今年に入って、「おや? 飲むとき舌が見えるな」と気づきました。これは手術前にはなかったことで、おそらく正しいlatching position(くわえ位置)、舌で乳首を巻き込むような飲み方ができるようになったのだと思います。もちろんこちらに痛みはありません。(目下、問題は歯があたることですね〜)

12月に入ってから、遊びでペロっと舌を出すようになり、かわいさ倍増です。
これも手術のお陰であることは明らかです。
今後の成長における問題は確実に減ったと思います。
(残る上唇小帯を切るかどうかは、永久歯が生える前に考慮する、とのこと。)

舌小帯短縮症は新生児、乳児の月齢の浅いうちに、口腔外科にて手術、がオススメです。

ちなみに手術を受けたのはココ、水谷歯科医院。
http://www.mizutani-dental.jp/
(水谷先生、ありがとうございました!)

東京でもやってるみたいです。
駒沢パークサイド歯科
http://blogs.yahoo.co.jp/jfhcq196/57872248.html

きしの歯科口腔外科クリニック
http://www.kishino-dental.com/0783/186.html
大人になって構音障害がでてから手術しても手遅れ?

気になるお値段ですが、舌小帯を切るだけの手術(舌小帯切離術)は保険で認められた手術ですので
患者負担は3,000円程度ですみます。診察代や処方薬は別途(これも保険ききます。)

(参考文献)
ちょっと昔のReviewですが、自宅のPCから閲覧可。
http://digital.library.pitt.edu/c/cleftpalate/pdf/e20986v06n1.03.pdf

2009年の最新レビュー。やっぱり、手術の要・不要に結論はでない、と。(症状の程度分類が困難なため、疫学的に比較できないそうな。)
Ankyloglossia: facts and myths in diagnosis and treatment.
Suter VG, Bornstein MM.
J Periodontol. 2009 Aug;80(8):1204-19. Review.

やはり哺乳の問題には手術が良いようです。乳首の痛みが改善。
Nipple pain at presentation predicts success of tongue-tie division for breastfeeding problems.
Khoo AK, Dabbas N, Sudhakaran N, Ade-Ajayi N, Patel S.
Eur J Pediatr Surg. 2009 Dec;19(6):370-3. Epub .


舌小帯短縮小の簡潔なまとめ。哺乳障害についても補って欲しいですね。
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10D20800.html

やはり、小児科の現状認識はこんなかんじ。でも、私は親としては手術して後顧の憂いは断っておきたかったので。
http://www.e-clinician.net/vol33/no353/pdf/sp26_353.pdf

歯科医の目から見ると、いろいろ口腔内の問題はありそうです。
http://www.chukai.ne.jp/~myaon80/mu4-caseB26tongankylo.htm

やっぱり医師の専門によって見解が分かれるみたいですね。(アトピー・アレルギー問題と同様。)

(おまけ)マウスでは、完全なankyloglossia は哺乳ができず致死となるようです。(やっぱりカエル腹になるようだ・・・)
Neonatal lethality of LGR5 null mice is associated with ankyloglossia and gastrointestinal distension.
Morita H, Mazerbourg S, Bouley DM, Luo CW, Kawamura K, Kuwabara Y, Baribault H, Tian H, Hsueh AJ.
Mol Cell Biol. 2004 Nov;24(22):9736-43.


舌癒着症(ADEL)については、手術をする先生たちで研究会を行い雑誌を作っています。(査読つき雑誌ではありません。研究会誌。)詳細はそちらを参照のこと。
ちなみにうちはこの手術は選択しませんでしたが、是非については結論しません。みなさん各自検討なさってください。


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コメント 7

リクエストした者です

参考になりました。ありがとうございます。
by リクエストした者です (2010-02-09 10:45) 

春

はじめまして。
息子も3ヶ月で手術しました。
手術方法は同じだと思いますが
うちは四針縫って、結構血も出てました。
おっぱいはすぐ飲めましたが、哺乳瓶は四日間拒否でした。
手術させてほんとによかったのかとほんの少し疑問が残っていた
のですが、この記事を読んで解消しました。
ありがとうございます。
by 春 (2010-02-11 09:46) 

にし

はじめまして。
8歳になる息子の舌小帯切除を考えているところで
レーザーがいいのか、耳鼻科か口腔外科か?
悩みに悩んでいます。

私もネットで探しに探し、水谷先生のことを知りました。また水谷先生ともに手術をしてきたという静岡県富士市の井出先生にもメールで相談したりしました。

できれば、そこで手術を受けたいとは思うのですが、
関西在住なのであまりに遠く・・・。

他に近くでないかと探してみましたが、
ネットで探せたのはレーザーを使った口腔外科or歯科のみ。
レーザーは術後の癒着の可能性があるという記述をネットで目にし、
やはり切除&縫合の方がいいのかと決断できず。

実家近くで症例数の多い病院を見つけましたが、
耳鼻科で、オトガイ舌筋まで切るらしく、
これもまた、その必要があるのか疑問が残り決断できず・・・。

あれこれ悩んでいる私にLuxel さんの記事はとても参考になりました。
私もやはりオトガイ舌筋まで切る必要はないと思いました。
レーザーがいいか悪いかは、まだ結論できないですが、
安心できる医者と思うなら、やはり静岡まで旅するしかないですかね・・・。

もう少し悩んでみます。
by にし (2010-02-15 13:07) 

Luxel

>春さま

記事がお役に立ったようでよかったです!

by Luxel (2010-02-16 02:24) 

ゆうまま

はじめまして。うちの息子にも舌癒着がありました。初めに紹介された有名な耳鼻咽喉科は、やはりオトガイ舌筋まで切る手術をするところだったのですが、キュ~君と同じように、うちの子もSpO2には問題なく、ドクターの説明にもやや不満があったので、オペの予約は入れつつも、ここ数日情報収集をしていました。そして、今日、まさにオペの日だったのですが、病院へ行く前に、Luxelさんのブログを偶然に見つけ、手術はキャンセル。たまたま家の近くに駒沢パークサイド歯科がありましたので、そちらへ相談し、早速、舌小帯切除のみの手術を受けてきました!術後は、息子のおっぱいの飲みが良くなって、すごく満足しています。駒沢パークサイドの先生もとてもおだやかで安心感を与えてくれる良い先生でした。息子は軽い湿疹もありますので、アトピー関係の記事もとても参考になります!Luxelさんのブログに出会えて感謝です!ありがとうございました☆
by ゆうまま (2011-03-01 22:35) 

Luxel

>ゆうまま様

同名の別の方と勘違いしていて、パスワードのメールが遅くなってしまいました。申し訳ありません。m(_ _)m
うちも、筋を切る方の手術は前日にドタキャンでしたf(^ ^;)。人気の手術らしくてどんどん予定が埋まっていくので予約はしていたのですが。。。。この時は手術の日まで時間がなく、必死に文献を探すもなかなか見つからず、結局手術に踏み切る決心がつかずに消極的なドタキャン。(先生のモンダイ発言も、それを後押ししたのだけど。)論文もほとんど出てない(この先生たちが作っている研究会の雑誌には載ってるけど、審査があって、より客観公正な雑誌(査読あり雑誌、といいます)には全くといっていいほど論文が無かった)ので、怖くなったんですよ。。。でもその後、より穏当な、歴史ある方法で手術をしてくれるドクターに巡り合えたので、今はその決断で良かった、と思ってます。

この時も、小児科・耳鼻科・歯科の先生の間の情報や見解のミゾの大きさを感じましたね。いろいろまわってくたびれましたが、アトピーに限らず、良い医療を受けるためには患者も勉強しなくてはならないのが日本なんだなぁ、と痛感しました。そのためにも、このブログがお役に立って良かったです。

軽減法の方も、どうぞご検討されてみてください。
by Luxel (2011-03-28 12:06) 

Me

うちの子 3ヶ月半も全く同じ症状で、体重増加も至って良好、Satも問題なし。ただむせたり、皮膚に大理石模様が出るなど当てはまる項目もちらほら。やはり舌癒着症専門のドクターはどう判断されるか気になり受診、結果上唇小帯も舌小帯も3(重度)との診断でした。
私も舌小帯だけでなくオトガイ舌筋まで切る必要があるのか、切ることでのリスクはないのかが心配でした。
今回は耳鼻科でのこの術式によるオペは控えようかと思っています。
ブログupされてから時間が経っていますが、その後、いかがですか。
by Me (2015-10-09 10:16) 

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