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経口免疫療法について(その1) [アトピー・アレルギー軽減法]

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食物アレルギーの新しい治療法である「経口免疫療法 (Oral Immunotherapy: OIT)について簡単に述べます。

基礎免疫学分野では20世紀初頭から、動物を用いた多くの実験により「経口免疫寛容 (oral tolerance)」という現象が確認されてきました。
つまり、

「免疫系は外来の=自分の成分とは異なる、つまり異物である食物成分に対して
なぜ反応しないのか?」

と疑問を持った研究者が、同じ蛋白質抗原を注射した場合と、食べさせた場合で、免疫の反応が異なる、つまり、前者に対しては抗体がつくられたり、炎症がおきたりするのに、
同じ成分を食べさせた場合にはこれら免疫系の反応が抑えられ、体は支障無く食物を受け付けることができる、ということを証明したのです。(←すごくおおざっぱな解説。)
この経口(食物)抗原が「免疫を抑制する仕組み」を「経口免疫寛容」といいます。

食物アレルギーの原因は、この「経口免疫寛容」の破綻、不成立のせいだと考えられています。

普通の人だと、この「経口免疫寛容」の仕組みが誘導されて、
免疫系の攻撃を受けることなく、食物が消化管を通って、体内に受け入れられる。

それに対して
食物アレルギーの人は寛容が誘導されず、免疫系がある食物を「敵だ」と認識して
排除しにかかるため、アレルゲンを含む食品を受け付けないように、といろんな反応がおきる。
つまり、吐いたり、下痢したり、蕁麻疹がおきたり、
気道粘膜が浮腫をおこして呼吸困難になったりします。
この反応は主にIgE抗体にアレルゲン蛋白が結合することによって生じ、特ににその中でも摂取後1〜数時間に以内におきる激烈で迅速な反応を「アナフィラキシーショック」と称します。

(正確な意味で「ショック」症状である場合、血圧が急激に下がり、不整脈、ひどい場合には心不全→死亡、となります。蜂毒でこのような反応が起きて死亡する人は多いです。←年間約20人程度。食品でも起こります。特に、2度目以降の摂取で起こることがあります。蜂毒も、初回刺されたときは大丈夫。2度目が危ないです。)

軽いショック症状まで含めれば、この「アナフィラキシー・ショック」は
かなりの回数、あちこちで起こっていると思います。(医療機関の受診に至らないケースを集計すれば。)
うちのQ君も、保育園で起こしましたが、保育士さんは判定できず、、、保育園から連絡きて飛んでったけど、後から冷や汗(通常は親でも難しいと思います。医療者でないと)。

経口免疫寛容は、現象面では非常に古くから記述され、よく知られた現象ですが、
その仕組みについてわかってきたのは、ここ20年ほどです。
まだ完全に解明されているわけではありませんが、
その仕組みには、大きくわけると

(1)アレルゲンに反応するT細胞の活性化や増殖が抑えられる"T細胞アナジー(T cell anergy, anergy=麻痺)"

(2)炎症と免疫応答を抑える「制御性T細胞 (regulatory T cell: Treg)」の誘導

が関与していることがわかっています。
(これ以外にも候補はちょこちょこあるのですが、今のところ主にこの2つと言ってよいかと思います。)

これらはマウスやラットを主とする動物実験、特に近年は遺伝子組み換えマウスを用いることによって、明らかにされてきました。
動物だと、最後に殺して細胞を取り出して解析したり、遺伝子組み換え動物を作ることも容易ですが、ヒトはそういう訳にはいきません。
ですから、マウスのメカニズムが人にもあてはまる、と断言はできませんが、
こういったメカニズムが「ヒトの免疫系にも共通して存在する」ことを否定する材料は今のところありません。おそらく同じか似たようなことが起こっているはずです。

ですから、「食べて治す経口免疫療法」の詳しいメカニズムはわかっていませんが
おそらくは(これは私の想像ですが)、腸管の粘膜内やパイエル板でTregが誘導されて効果を発揮しいているのではないかなぁ、と想像します。
(もちろん、OITにもいろいろプロトコールがあって、プロトコールごとに誘導される抑制の機序に違いがあるように思います。プロトコールには大きくわけて急速法と緩徐法があります。)

さて、何をどのようにしたらOITが出来るのか?
ですが、

アレルギー専門医が薦めているのは以下のとおりの手順です。

[1]アレルゲン食品の負荷試験
 どのくらい食べたら症状が出るのか、とのくらいの量までなら食べ足れるのか、
 まずは確認のための試験。病院に入院、あるいは外来にて行います。
 
[2]アレルゲン食品の導入開始・増量・維持期
 外来、もしくは入院にて負荷試験で見いだした症状誘発量よりも少量から摂取。その後、急速法なら2〜3週間の入院中に緩解量まで摂取。緩徐法なら自宅にて一定量を一週間継続して毎日摂取。次の週は1割〜2割程度増して、また1週間摂取。以後、同様に増量〜緩解量まで。

[3]アレルゲン食品の一時的除去により耐性の誘導を確認
 緩解量に到達した後、ある一定の除去期間(たいてい2週間以上)をおいて、再度摂取して確認(外来 or 入院して)。


こうかくと、きっちりスキーム(治療の手順)が決まっているような印象を受けるかもしれませんが、
・何を基準に「急速法 (rush OIT, rush SOTI)」がいいか、それとも「緩徐法(slow OIT, slow SOTI)」が妥当と判断するのか?
・どういう割合とペースでアレルゲン食品を増量していくのがいいのか?
・何才頃にOITを実施するのがいいのか?

まだ何も合意はありません。
まだ、臨床試験において、さまざまなスキーム(増量の割合、増量のペース、増量開始から終了までの期間等がそれぞれ異なる)が試され、ぼつぼつと論文が出ているような段階です。

次回、経口免疫療法(その2)で、世界での主な取り組み(論文)をささっとご紹介します。
その次がいよいよ(←?何がいよいよだ。。。)「我が家の経口免疫療法」のご紹介、となる予定です。乞うご期待!
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レミママ

お忙しいのに、コメントしてすみません。
本当にありがとうございます。
今6ヶ月うちの子は5大アレルゲンやピーナッツ、その他野菜、豚・牛・鳥肉は食べれるのに、湿疹が治りません。

(まだ食べさせてないものもたくさんありますが、私が普段口にするものは、問題なく食べれています。)
もちろん、皮脂温存入浴法も生後2か月から行っています。
何がいけないのか?アトピーの私の母乳がいけないのか??
赤ちゃんは母親から免疫を貰っていると聞くので、
私の異常な免疫のせいなのか・・・・?
とにかく本当にブログの更新、ありがとうございます。


by レミママ (2015-04-12 20:44) 

カービー

キュー君の食物アレルギーは、炎症の続いた皮膚からの感作も一因かもしれないと考えたことはありませんか?経皮感作はまだ仮説の域を越えないとは思いますが・・・・

今月のアレルギー学会の抄録集を呼んでましたら、母乳にある特定の物質が出ている場合、その母乳を飲んでいる児のAD発症が明らかに多かったポスター発表を見つけました。その物質がない母乳の児はAD発症がほぼゼロでした。luxelさんが何年も前に書いていた記事と合致するなぁと思いました。

私にも男の子がいるので、子どもを守るにはどうしたらいいか悩んでいます。luxelさんのお考えにかなり近いものを感じています。英語は最低でも習得、あと、できるだけお金をためることですかね。いつでも日本を脱出できるように。夫のアメリカ留学の際、息子をアメリカで出産しようと思えばできたのに、なんで10年前に日本で産むことにしたんだろうと、今はとにかく後悔しています。日本がこんなことになっていくなんてその当時は考えもしていなかったです。5年後、10年度、もっともっと暗黒な国へ突き進んでいくのだろうと(表向きはそういう風に捉えられないよう、メディアを使って情報操作していくのは明らかです)、半ば確信しながら恐れています。

軽減法の続き、楽しみに待っています。
やっぱり、ナイーブT細胞がたくさんある幼児期に経口免疫療法を始めたほうが良いんですね。下の子は、3大アレルゲン、バナナ、ピーナツ除去中ですが、luxelさんの記事のおかげで、そろそろ3大アレルゲンぐらいは食べさせてみようと思うに至りました。

by カービー (2015-05-04 06:45) 

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